トモエ学園はなぜなくなったのか？現在の跡地とその後を徹底解説

「なぜトモエ学園はなくなってしまったのか」と疑問を持つ人は多いはずです。かつて子どもたちに自由な教育を実践したこの学校は、戦争や時代の変化とともに姿を消しました。

その背景には、社会情勢や教育制度の大きな変化が影響しています。実際、戦時下の東京大空襲で校舎は焼失し、その後の再建も困難を極めました。さらに教育政策の変化により、特色ある私立学校が存続することは難しい状況となっていったのです。

この記事では、トモエ学園がなくなった理由とその後の跡地について解説します。読むことで、歴史的背景を知るだけでなく、教育のあり方についても考えるきっかけを得られるでしょう。

トモエ学園はなぜなくなったのか？歴史的背景を解説

トモエ学園が姿を消した流れは、1945年4月15日の空襲による校舎焼失を起点に、戦後の制度・資源・地域の制約が重なって小学校部が廃止され、幼稚園のみが再建されたという順序です。最終的には創設者の死去後に幼稚園も閉じられ、休園を経て1978年に廃園が確定しました。

東京大空襲による校舎焼失

1945年4月15日の空襲で自由が丘周辺は大きな被害を受け、学園の校舎と電車教室は短時間で炎上・消失しました。教具・記録・楽器などの教育資産も焼失し、教育活動は即日中断を余儀なくされました。

教員と児童の疎開・転出が進んだことで学級の継続性が途切れ、学籍管理や評価の連続性も保てなくなりました。復旧の目処が立たない状況は保護者の安全判断にも影響し、戦時下の学校運営は急速に停止しました。

幼稚園だけ再建され小学校は廃止

戦後、小学校部の再興は見送られ、幼稚園のみが段階的に再建されました。背景には建材や用地の不足、人材の流動、戦後の新学制への適合負荷といった複合要因がありました。

初等教育を再開するには教室数・教員配置・教科書供給・通学路の安全確保など多面的な条件整備が必要でした。対して幼児教育は小規模から始められ、地域の就学前児を受け入れつつ教育の火を絶やさない現実解となりました。

総じて、小学校部の再建は制度・資源・地域の三重制約で非現実的だったため、幼稚園への集中は理念の連続性を守る最小損失の選択でした。結果として教育機会は細く長く維持され、後年の評価にもつながりました。

園長・小林宗作の死による廃園

1963年に小林宗作が逝去し、園は閉園と休園を経て1978年に廃園に至りました。創設者の観察と即興に依拠した実践を同水準で継承することが難しく、後継設計が不完全だったことが響きました。

個人の裁量に寄る運営は価値の純度を保てる一方、意思決定・資金・人事の分散設計が弱く、持続性の担保が難しくなります。理念を制度化すれば独自性が薄れ、制度化しなければ継承が途絶えるというジレンマが、最終判断を後押ししました。

• 人材継承の壁：観察と即興を核にした指導法の再現困難
• 組織設計の脆弱性：個人主導の意思決定が後継の障壁に
• 財源の不安定さ：私財・寄進依存が固定費負担に耐えにくい
• 立地・施設課題：都市開発との再投資優先度の乖離
• ブランドの固有性：スケール化に不向きで標準化と相性が悪い

以上の事情から、学園は実体としての継続より資料と記憶による継承を選びました。名は施設から離れ、社会に残る教育観として受け継がれました。

トモエ学園とはどんな学校だったのか？

トモエ学園は子どもの個性を尊重する自由な校風と、音と身体を媒介にしたリトミックを核に据える点で際立っていました。廃車の電車を教室に活用するなど環境づくりにも創意があり、学ぶ場そのものを子どもに開く設計でした。

リトミック教育と独自の学び

学園の核はダルクローズのリトミックで、拍・強弱・フレーズを身体で感じ取り即興で表現する学びでした。視唱や打楽器、歩行・跳躍・停止などの運動を組み合わせ、音と運動を統合する授業が日常化していました。

机上に閉じない設計が徹底され、電車教室・校庭・近隣の環境を横断しながら課題を展開しました。音・ことば・からだを結ぶ活動は集中・協働・自己調整といった非認知的基盤の形成にも波及しました。

こうした体系は「好き」を起点に学びを設計し、能力の凸を入口に全体の底上げを図る枠組みでした。音と身体の統合を核にした実践は、今も幼児・初等教育の参照軸になります。

小林宗作の教育理念

小林は子どもの内にある良い性質を早期に見つけて伸ばすことを教育の核に置き、教師は子どもを枠にはめず生活と自然へ導く案内人であるべきだと考えました。評価は一面で決めつけず、行動・情動・学習の複数指標で捉える姿勢が重視されました。

• 個の尊重：一人ひとりの興味から学びを設計
• 生活即教育：校外・自然を含む環境の教材化
• 観察と即興：子どもの反応に合わせた展開
• 統合主義：音・身体・言語を縦割りにしない
• 多面的評価：定量と定性の併用で成長を可視化

当時の一斉指導や唱歌中心の型に対して、総合芸術としての学びを提案した姿勢は先駆的でした。結果として自己肯定感と探究心を土台に学力を伸ばす循環がつくられました。

著名人との関わりと支援

三菱の岩崎小弥太は小林の実践を高く評価し、海外での研修や研究の支援を通じてリトミック導入の礎を築きました。この投資が帰国後の実践を加速させ、トモエ学園の教育設計を決定づけました。

黒柳徹子は在籍した著名な卒業生で、『窓ぎわのトットちゃん』によって学園の思想は広く社会に伝わりました。書籍は閉園後も教育観の更新に寄与し、トモエ学園を「生き続ける教育史的参照点」に押し上げました。

個人の支援と卒業生の発信が、短命だった学園を「長寿の理念」に変換したことは重要です。制度としての継続は途絶えても、方法としての継承は社会に残りました。

トモエ学園の歴史と歩み

トモエ学園は1937年に創設され、1945年の東京大空襲で校舎を焼失したのち幼稚園のみで存続し、最終的に1978年に廃園届が認可されました。戦前・戦中・戦後の社会変動の中で自由教育を貫こうとした足跡が、時系列で追うと明確になります。

創設の背景と自由教育の始まり

1930年代の日本は軍国主義的な統制が強まり一律的な教育が広がっていましたが、小林宗作は欧州で学んだリトミックと児童中心の理念を軸に、心身を使って学ぶ自由教育の場を構想しました。音楽と身体表現を融合するリトミックを日課に組み込み、「子どもの個性を伸ばす学校」を目指したのです。

1937年、小林は自由ケ丘学園の小・幼を引き取り「トモエ学園」として再出発させ、東横線・自由が丘界隈に電車の車両を活用した教室を並べました。駅近の立地と独創的な校舎は地域の象徴となり、のちの記念碑が自由が丘の商業施設敷地内に置かれる背景にもなりました。

当時の具体的な教育実践は次の通りです。電車の教室や科目の自己選択、日々のリトミック、弁当の「海のもの・山のもの」ルール、校外での体験学習が組み合わさっていました。

• 電車の教室（廃車車両を教室化）
• 学習順序の自己選択（最初に好きな科目から始める）
• 毎日のリトミック（音楽×身体表現）
• 弁当の「海のもの・山のもの」ルール
• 地域での体験学習（九品仏・浄真寺方面への道中学び）

これらの方法は当時としては先進的で、異年齢の関わりや教科横断の学びを自然に生みました。子どもの主体性を起点に据えることで、学習動機と生活経験が結びつく設計でした。

戦中・戦後の困難と挑戦

トモエ学園は1945年の空襲で校舎を焼失し、翌1946年に小学校部は廃校となりました。戦後は幼稚園のみを再建し、限られた資源のなかで理念の継承を図りました。

1963年に小林宗作が逝去すると園は休園となり、1964年には事実上の廃園状態に移行します。法的には1978年に廃園届が認可され、長い再建の試みは幕を下ろしました。

廃園に至るまでの経緯

戦後の再建は幼稚園単独で行われ、学園の運営規模は戦前より縮小しました。地域との関係を保ちながらも、財政・人材・施設面では常に制約がつきまといました。

教育の核を担った小林宗作の不在は運営の持続可能性に直結し、園は休園を余儀なくされます。教育活動は事実上停止し、組織としての機能維持が課題化しました。

一方で、跡地は戦後の市街地発展の中で商業利用が進み、長く「ピーコックストア自由が丘店」が営業しました。学園の記憶は記念碑の設置という形で地域に引き継がれました。

2020年代に入ると再開発で「JIYUGAOKA de aone」がオープンし、記念碑も同地に再設置されます。物理的な校舎は失われても、理念の痕跡は都市空間の節点として残り続けています。

以下に主要な出来事を一覧化します。簡潔に時期・出来事・背景・影響の対応関係で把握できるよう整理しました。

この流れは戦争と復興、指導者の交代、都市開発という外的要因が、学校の存続条件をどう左右したかを示します。個性尊重の自由教育は制度としては終幕しましたが、物語と記念碑を通じて教育観は継承されました。

トモエ学園が有名になった理由

全国的な知名度を決定づけたのは黒柳徹子『窓ぎわのトットちゃん』（1981年）の大ヒットで、累計は2,500万部超に達し国際的にも話題になりました。希少な自由教育の実例が読み物として広がり、教育観を揺さぶったことが社会的注目を生んだのです。

『窓ぎわのトットちゃん』の影響

刊行当時からベストセラーとなり、トモエ学園の教育像と小林宗作の信念が家庭や教育現場で議論されました。記録的な発行部数は現在も引用され、作品は世界各地で読まれ続けています。

2023年には長編アニメ映画化と歩調を合わせ、跡地での記念碑除幕式も報じられて関心が再燃しました。メディア露出の波及で「電車の教室」や名言が再認識され、次世代にも物語が接続されました。

自由で創造的な教育への共感

トモエ学園が共感を集めた要点は分かりやすく整理できます。以下の短い項目は現代の教育論でも頻出の論点です。

• 子ども主体の学び（学習順序の自己決定）
• 身体性を伴う音楽教育（毎日のリトミック）
• 生活と結ぶ実体験（校外での観察・対話）
• 個性の受容と言葉がけ（「君はほんとうはいい子」）
• 異年齢・教科横断の自然な交流

物語を通じて具体像が可視化されたことで、保護者は家庭教育のヒントを、教育者は教室設計の示唆を得ました。理念が抽象論で終わらず、実践のディテールとして伝わった点が共感の核心でした。

トモエ学園の跡地は現在どうなっているのか？

跡地は長らく「ピーコックストア自由が丘店」の敷地として利用され、地域の生活圏に組み込まれてきました。再開発により2023年に商業施設「JIYUGAOKA de aone」が開業し、学園の記憶は場の更新とともに保存されています。

商業施設への変化

自由が丘北口の学園通り沿いにあった記念碑は、ピーコック敷地の管理体制整備を経て地域が守る資産となりました。再開発後は「JIYUGAOKA de aone」内で商業・交流の機能と共存し、街の歩みと学園史が重ねられています。

「JIYUGAOKA de aone」は2023年秋にグランドオープンし、周辺の回遊性を高める拠点として整備されました。学園の物語は都市の最新スポットの文脈に編み込まれ、来訪者が歴史に触れる導線が確保されています。

記念碑の設置と除幕式

記念碑は1988年に最初の除幕式が行われ、その後管理主体の明確化を経て再設置されています。2023年11月24日には「JIYUGAOKA de aone」入口近くの植栽部分に戻され、位置も案内性の高い場所になりました。

同日の除幕式には黒柳徹子が出席し、「人生で一番幸せだったのは、この学校に通っていた時」と語る発言が各紙で報じられました。碑の再設置は映画公開とも連動し、地域と物語をつなぐ象徴的な出来事になりました。

トモエ学園を受け継ぐ教育機関はあるのか？

校名としての直接の後継校は存在しませんが、小林宗作が創設・関与した教育機関や、その理念に影響を受けた園・学校に「精神の継承」を見いだせます。具体的には国立音楽大学附属幼稚園・同附属小学校などでの実践や、自由教育・オルタナティブ教育の流れの中に継承が確認できます。

国立音楽大学附属幼稚園との関わり

小林宗作は1950年に「国立幼稚園」（のちの国立音楽大学附属幼稚園）の初代園長を務め、幼児の主体性を重んじる保育と音楽・リトミックを基軸に据えました。トモエ学園で培った「子どもをまるごと受けとめる」姿勢が制度化された場で継続され、教員・地域を巻き込む実践として根づきました。

さらに1953年には同大学附属小学校の設立に関与し、園と小の連続性の中で芸術・身体表現・探究を横断する学びを展開しました。戦禍で校舎を失ったトモエの理念は、園小接続とリトミック研究の広がりの中で「方法」として残ったと評価できます。

要するに、国立音楽大学附属幼稚園はトモエ学園の名を継ぐ組織ではありませんが、初代園長としての小林の意思決定と実践が色濃く刻まれています。したがって「系譜としての後継」より「理念の承継」という理解が妥当です。

以下に、トモエでの実践と国立音大附属幼稚園での方針・実例の対応を整理します。対応関係は完全一致ではなく、小林の研究と園文化の中で最適化された運用と読み替えてください。

結局のところ、国立音大附属幼稚園は「直接の後継校」ではないものの、小林宗作の初代園長期を起点にトモエの核＝個性尊重・音と身体・生活即学習が制度の中で再構成されて続いています。名称ではなく機能と文化の継承に目を向けると、トモエの現在地が見えてきます。

シンボルとして残る藤の木

トモエ幼稚園の藤の木は1954年頃に国立音楽大学附属幼稚園へ移植され、「トモエふじ」と呼ばれて大切に維持されています。園児が藤棚の下で遊び学ぶ風景は、学園の記憶と理念が生き物として継承される象徴です。

日本文化における藤は長い蔓に由来する「長寿・やさしさ・良縁」の象徴とも解され、教育環境における成長・つながり・持続のメタファーとして読み解けます。物理的な校舎が失われても象徴物を介して理念が更新され続ける点は、地域の文化資源としても価値があります。

• 移植先：国立音楽大学附属幼稚園（東京都国立市）
• 呼称：「トモエふじ」（園文化の象徴として継承）
• 移植時期：昭和29年（1954年）頃
• 意義：学園の記憶・理念の「生きた記念碑」

藤の木に触れる体験は「歴史を身体で学ぶ」機会を子どもに与え、理念の抽象語を日常の感覚へ翻訳します。象徴資源の継承は、教育理念の持続可能性を高める最小単位の実践です。

トモエ学園から現代教育が学べること

現代の学校・家庭が直面する多様性と学びの質の課題に対し、トモエ学園は「個の物語を中心に据える」「体験と芸術で思考を耕す」実装を示しました。評価や制度が変わっても、原理としての示唆は揺らぎません。

子どもの個性を尊重する重要性

個性尊重は単なるスローガンではなく、時間割・対話・観察記録・評価設計とセットで制度化すると効果が出ます。トモエの実践は、少人数・長い対話・学習順の自由化など具体的運用でそれを成り立たせました。

• 学習順の自己決定（課題は全員達成、順番は自由）
• 長時間の傾聴（初対面でのロングインタビュー）
• 小規模編成と縦横のつながり（相互学習）
• 逸脱行動の再文脈化（興味の資源化）

総じて、「一律」から「個の達成×共同体の秩序」へ設計を刷新すれば、学びの質は跳ね上がります。個性尊重は運用のディテールを伴ってはじめて成果になります。

創造性を伸ばす環境づくり

創造性は才能ではなく環境設計の成果であり、トモエは教室を電車にするなど物理環境そのものを「学びの道具」に変えました。音・身体・自然・共同生活を縫い合わせた「体験の密度」が、抽象思考の基盤を育てます。

• 空間：可動・多用途・素材に由来する遊び（車両教室／屋外学習）
• 時間：散歩・観察・制作に長い連続時間を確保
• 芸術：音と身体表現を毎日のルーティンに組み込む
• 共同性：全校昼食や行事で異年齢の関係性を編む

環境づくりは「好奇心→没頭→共有→振り返り」の循環を回し続ける設計です。学校はカリキュラムの外縁に環境を置かず、内在化することで創造の土壌を厚くできます。

関連するよくある質問（FAQ）

トモエ学園の卒業生で有名な人は？

黒柳徹子さんが最も知られた卒業生で、著書『窓ぎわのトットちゃん』でトモエの学びを広く伝えました。同書と近年の報道・映画化で理念が再評価されています。

トットちゃんはなぜ退学になったのですか？

授業中に窓辺で通行人に声をかけたりチンドン屋を呼ぶなど、当時の一斉授業の規範から外れた行動が「迷惑」とされ転校を勧奨された経緯があります。母は理由を告げず新しい学校を探し、小林宗作が長時間の対話で受け入れました。

トモエ学園みたいな学校はどこですか？

理念は異なりますが、少人数・体験・芸術・自己決定を重視する学校として自由学園や玉川学園、オルタナティブ教育ではシュタイナー系・フリースクール・サドベリー系などが参考になります。例として東京賢治シュタイナー学校、学校法人シュタイナー学園、東京シューレ（および私立の東京シューレ葛飾中学校）、東京サドベリースクールなどが挙げられます。

トモエ学園の生徒数は何人でしたか？

全校でおおむね50人規模で、1クラスは一桁台〜10人程度という小規模編成でした。小規模だからこそ長い対話・自由な学習順・共同の昼食などが運用できたとされています。